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FIREをおすすめしない理由と、FIREを目指す若者の切実な事情

※本記事には広告が含まれています。
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近年、早期退職と経済的自立を目指す通称「FIRE」が若者の間で一大ムーブメントになっている。
書店のマネーコーナーには必ずと言っていいほどFIRE関連本が陳列されている。

だが、1人くらいFIREに異を唱える人がいてもいいだろう。
本記事ではFIREムーブメントに中指を立てていくと共に、FIREが日本で流行った理由についても考察してみる。

目次

 

人的資本を早期に手放すのはもったいなさすぎる

 

経済学者のアダム・スミスが提唱した、「人的資本」という概念は、人を資本とみなす考え方である。

この人的資本を労働市場に投資すれば、ほぼ確実に決まったリターンを得られる。
わかりやすく言えば、時給1000円のコンビニで月100時間働けば、必ず10万円を得ることが可能になるわけだ。(税金と保険料は考慮しないものとする)

さらに人的資本は、教育投資や様々な経験値を積み上げることで資本の価値が高まり、それに連動して収益性も向上していく。
こんな稀有な資本は中々ないので、この人的資本を最大活用することが富への第一歩となる。

ところが、FIREは労働市場からの早期撤退を目指す考えなので、早々にこの人的資本を手放すことになる。これはどう考えてももったいない選択だ。

60歳まで働いた場合の生涯賃金は、学歴によって変動はあるが概ね2億円で、仮に40歳でFIREしたとすれば、残り20年の期間は本来得られるはずだった労働収入を得られるなくなるため、生涯賃金は大きく下がる。
参考: ユースフル労働統計2021


年を重ねる毎に収入は高くなってくのが一般的なので、経済合理的に考えるなら早期リタイアはベストな選択とは言えない。

また、リターンが不確実な金融市場への投資一本槍だと、市場の低迷で資産が大きく毀損するため精神的にも経済的にも不安定になるリスクもある。

短時間のバイトでもしていれば安定的な収入確保につながるので、ある程度は心の平穏を保てるだろう。どうしても今の仕事が嫌だとしても、完全に仕事を辞めるのではなく、バイトでもいいから多少は人的資本を活用した方がいいと筆者は思う。

 

働かないとボケる!?

 

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)は、社会的なつながりを示す概念で、近所付き合い、友人関係、仕事の関係、など人間関係全てに当てはまる。

この社会関係資本が強い人は、健康的かつ長寿の傾向が強いという。

社会的なつながりの健康格差を研究している村山氏によれば、一番長寿に寄与しているライフスタイルは、運動でも、禁酒でも、禁煙でもなく、社会とのつながりだとまとめている。
参考: 人の健康は「社会とのつながり」が決めていた

感覚的にも社会とのつながりが多い人強い人は、健康的なイメージがあると理解できるが、よもや運動よりも健康への寄与が大きいとは思わなかった。

また、社会的なつながりが多いと認知症リスクも減らせるとの追跡調査もある。
参考: 「社会的つながり」が多いと認知症リスクが46%低下 国立長寿センター

この追跡調査では、社会的なつながりを以下の5つに分類した。

1. 配偶者がいる
2. 同居家族と支援のやりとりがある
3. 友人との交流がある
4. 地域のグループ活動に参加している
5. 何らかの就労している


この5つ全てに該当すると認知症リスクが46%低下するという。

つまり、FIREし労働市場から撤退することによって社会的なつながりが希薄になり、健康リスクが増加する可能性が示唆される。

特に男の場合、「仕事」が社会とのつながりの中で最も大きいウエイトを占めるケースが多いため、その仕事をしないとなれば社会との接点が完全に断たれてしまう人も出てくるだろう。
そうした観点からFIREは推奨できない。

労働が尊いものだと説くつもりは毛頭ないが、労働しないことでボケ老人になるくらいなら筆者は一生働き続けたい。

※記事文末の参考文献にも載せておくが、社会関係資本と健康の関係については、まだ研究途上なのでどこまでが正しいかは未知の部分が多いことは付け加えておく。

 

日本でFIREムーブメントが起きている理由

 

WikipediaによればFIRE発祥の地はアメリカだという。
参考: FIREムーブメント

自由を愛するアメリカだからこそFIREが流行ったのだろうか。
それが日本に輸入され、アメリカと同じように日本でもFIREが一代ムーブメントとなった。
Amazonの「本」カテゴリで「FIRE」と打てば6万件の書籍がヒットし、インフルなエンサーたちもFIRE的ライフスタイルを猛プッシュしている。

アメリカで流行ったものはいずれ日本でも流行るというのは、スタートアップ界隈でよく聞く話ではあるが、筆者が思うに日本でFIREが受け入れられた理由は、日本が労働に希望を持てない国になってしまったからではないだろうか。

頑張って働くことで幸福な人生が保証されているなら、皆頑張って労働に勤しむだろうが、我が国はバブル崩壊からずっと経済は停滞しており、その停滞っぷりは「失われた30年」と評される。

給与はさして上がらないが税金と社会保険料は上昇を続け、国民の実質可処分所得は減少傾向にある。
特に社会保険料の上昇は顕著だ。

2004年の厚生年金保険料率は13.93%だったが段階的に引き上げられ、2017年には上限である18.30%に達した。
参考: 厚生年金保険料の変遷

厚生年金ほどではないが健康保険料も増加傾向。
参考: 保険料率の変遷 協会けんぽ

大和総研が作成したレポート、「平成の 30 年間、家計の税・社会保険料はどう変わってきたか」でも社会保険料の負担率の上昇を指摘している。

レポートでは、二人以上の勤労者世帯における1ヶ月の社会保険料の全国平均負担額が、1988年は30923円だったが、2017年には56869円まで増加している事実を突きつけている。
変動率でみれば、実に83.9%もの増加だ。

サラリーマンは社会保険料から絶対に逃れることはできないので、保険料率が上がればその分可処分所得は減っていく。
保険料率が上昇の一途を辿っているのは少子高齢化が最大の理由で、若者たちは増え続ける高齢者に押し潰されるという感覚をどこかで持っているのかもしれない。

こうした状況下でまともに働きたいと思う若者が果たしてどれだけいるか。
若者に、「一番何にお金を使っている?」と聞いてみれば、「税金と保険料」と全くもって笑えない回答をする者もいる。

となれば早々に労働市場から撤退しFIREを目指す若者が出てきても、それは当然の帰結といえるだろう。若者にとって労働は夢も希望もないのだから。

 

FIREはおすすめしないけど、いつでもFIREできる状態にしておくのはアリ


「アマゾンの倉庫で絶望しウーバーの車で発狂した」は、著者であるジェームズ・ブラッドワースが最低賃金労働の現場に潜入した、生々しいドキュメンタリー本だ。

 


アマゾン倉庫に潜入した際の描写は中々にえぐかった。

高圧的なマネージャー、長時間労働、少ない休憩時間、病欠は減点、規定通り支払われない給料、挙げればキリがないほど劣悪な労働環境である。

アマゾン従業員に対してGMB労働組合が行なった調査によれば、次のような結果が出た。


・ 91%がアマゾンで働くことを友人に勧めたいとは思っていない
・ 70%が不当に懲罰ポイントを与えられたと思っている
・ 89%が自分は利用されていると感じている
・ 78%が休憩は短すぎると感じている
・ 71%が1日に16キロ以上歩いたと応えた

第一章「アマゾン」54pより

読んでて、ここがアマゾンの倉庫ではなくアウシュヴィッツ強制収容所だと錯覚した。

消費者にしてみればアマゾンは何でも売っており、ワンクリックで注文でき、プライム配送で迅速に商品が送り届けられるというもはやインフラレベルのサービスだが、本書を読むと、その圧倒的な利便性は多くの低賃金労働者の屍の上に成り立っている事実を突きつけられる。

これだけ最底辺の労働環境でも、アマゾンで働く人たちは自分から辞めようとしない。
なぜなら、辞めても他に行くところがないからだ。
だから、どれだけ劣悪な環境でも辞めるという選択肢を持つことができず、最底賃金労働に従事する。まさに悲劇である。

アマゾンの例は極端にしても、この世の中には仕事を辞めたくても生活のために辞められない人はたくさんいる。
どれだけ仕事がきつくても、どれだけ理不尽な目にあっても、経済弱者は辞めるという選択肢を持てない。

だが、FIREできるだけの資産形成に成功した者は、「いつでも辞めれるカード」を持っている。
辞めても資産運用だけで生活ができるのだから、あえて理不尽な労働環境に身を投じる必要性もない。

結論仕事を辞めないにしても、「生活のために仕事を辞められない人」と、「いつでも仕事を辞められる人」だと、どう考えても後者の方ストレスフリーだろう。

以上の事実から、FIREはおすすめしないが、いつでもFIREできる状態を目指すのは大いにアリだと筆者は考える。

 

おわりに

 

最近、「女子中学生投資家」なる存在がTwitterのTLを賑わしている。

なんでも中学生ながら資産2億円を達成しているクレイジーなJCなわけだが、アイコンの写真を盗用していたり、車の運転をしている過去を暴露されたり、ブルセラ商法している疑惑があったりと、やや旗色が悪い中学生投資家さん。
しかし、いつだって世のおっさんはJCに弱いため、一定数彼女の信望者が湧いてくるのがインターネットの面白いところである。

某大物投資家に、「中学生って嘘だよね?」とつっこまれると、「なら嘘であるという証拠を出してください!証拠を出せないなら私が中学生なのは事実ということです!」とロンパーキッズみたいな主張をする中学生投資家さん。

哲学者のバートランド・ラッセルに言わせてみれば、反証不可能な主張をする側に立証責任があるわけだが、中学生投資家さんはその立証責任を他者に押し付けてるあたり、ある意味中学生っぽい。

嘘を嘘と見抜けない人があまりにも多いためか、彼女のフォロワーは爆増し続け、2022年6月29日現在では7.2万人のフォロワーを獲得するまでになっている。
これだけのインフルエンスを持てば、何かの商売を始めるにあたって非常に有利といえるだろう。
うまく立ち回れば本当に2億稼げるかもしれない。

筆者はFIREするつもりはないが、いつでもFIREできるだけの資産は喉から手がでるほど欲しいので、女子小学生投資家、ないしは幼稚園生起業家とでも名乗ってマネーメイクしようかな。
どれだけ非難轟々だろうと悪名は無名に勝るのだから。

【その他参考にした資料】
ソーシャルキャピタルと健康
【図解・行政】厚生年金保険料率の推移(2017年8月)
失われた30年
家計の所得・資産面の変化 内閣府(可処分所得の項について参考にしました)